相続財産が分割されていない場合の相続税申告について

1.はじめに
相続が発生した際には、原則として被相続人が死亡したことを知った日(通常は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に相続税の申告と納税を行う必要があります。
しかし、相続人間で意見が対立していたり、不動産の評価や相続人の調査に時間がかかるといった理由で、この期限までに遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。
こうした場合でも、相続税の申告・納税は期限内に行わなければなりません。
遺産分割がされていないということで、相続税の申告期限が延びることはないのです。
そこで問題となるのが、「遺産分割が決まっていない状態で、どうやって申告するのか」という点です。
ここではその対応方法と注意点について解説します。
2.未分割時の相続税申告の考え方
相続財産が分割されずに申告期限を迎える場合、相続税の申告は、「法定相続分に応じて」行うことになります。
これは、各相続人が法定相続分に従って財産を取得したものと仮定して、それぞれの相続税額を算出し、申告・納税をします。
例えば、相続人が配偶者と子一人の場合、法定相続分は配偶者1/2、子が1/2になります。
この割合に従って相続財産を取得したものとして相続税の計算をします。
3.未分割申告の影響
遺産分割がまとまらないまま相続税の申告を行うと、いくつかの特例が適用できず、相続税を軽減できないというデメリットがあります。
例えば、次の税制は適用できません。
(1)配偶者の税額の軽減の特例が使えない
配偶者が相続する財産に対しては、1億6,000万円または法定相続分までの金額について相続税がかからないという特例があります。
相続税を大きく軽減できる制度ですが、誰がどの財産を相続するかが決まっていない場合、この特例は使えません。
(2)小規模宅地等の特例が使えない
相続財産のうち、自宅や事業用に使われていた土地については、一定の要件を満たすと最大80%の評価減が可能です。
しかし、その土地を誰が相続するかが明確でないと適用できません。
4.申告後に遺産分割が成立した場合の対応
申告期限後に遺産分割がまとまり、遺産分割に基づいて計算をした相続税額と、法定相続分で計算をした相続税額とが異なるときには、遺産分割の財産の額に基づいて「更正の請求」または「修正申告」をすることができます。
更正の請求
遺産分割がまとまらないときに法定相続分で申告をして納めた税額よりも、遺産分割に基づく税額の方が少ない場合には、更正の請求をすることができます。
この更正の請求は、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
修正申告
逆に、遺産分割に基づく税額の方が多い場合には、修正申告をすることになります。
5.申告期限内に特例適用を「予約」する方法
上述したように、遺産分割がまとまらないと配偶者の税額の軽減の特例や小規模宅地等の特例の適用はできませんが、一定の手続きを取ることで特例を受けることができます。
申告期限後3年以内の分割見込書
未分割申告をする際に、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておくと、後に相続税の申告期限から3年以内に分割がされた場合には、特例の適用を受けることができます。
遺産分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求を行い、税金を還付してもらうようにします。
6.3年経っても分割されない場合
申告期限から3年を経過しても分割されないと、原則として特例の適用は受けられません。
ただし、相続の争いで裁判中であるなど、相続財産が分割されなかったことについて、やむを得ない事情がある場合には、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を所轄税務署長宛てに提出し、税務署から承認を受けることができれば、特例の適用を延長することができます。
この承認を受けた後、裁判の判決が確定したなど、やむを得ない事情が解消した場合には、4か月以内に遺産分割をし、これらの特例の適用を受けることができます。
適用を受ける場合は、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内までに更正の請求を行います。
参考:国税庁「B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」
7.まとめ
遺産分割が申告期限までにまとまっていない場合でも、相続税の申告・納税は期限内に行う必要があります。
ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などは適用できないため、特例の適用を受けるためには「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出は非常に重要です。
相続人間での争いや不明確な財産の存在が申告手続きを複雑化させることもありますので、早期の専門家相談や遺言書の活用がトラブル回避につながります。
この記事を書いた人

- 税理士 伊藤 千鶴
・複数の税理士法人、経済産業省で勤務をした後、独立しました
・中小企業の顧問、個人の相続・確定申告を中心に業務をしています
・福島県生まれ
・子供のころの夢は、小学校の先生でした
・苦手なことは、人前に出ること
・尊敬するひとは、手塚治虫です
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